錦二丁目環境アカデミー2 講座1「公共空間がもたらすまちの価値向上」開催報告

 

9月28日に、2016年最初の錦二丁目環境アカデミーを開催しました。

講座①のテーマは「公共空間がもたらすまちの価値向上」。海外の公共空間(道路)活用事例「Parklet」の仕組みについて勉強しながら、これまで錦二丁目で取り組んできた公共空間プロジェクトを振り返り、これからの戦術を考える流れです。

 

 

錦二丁目まちづくりとTactical Urbanism

 

 まずは、錦二丁目低炭素地区会議の議長でもある村山顕人先生(東京大学大学院准教授)から、講座の趣旨説明として錦二丁目まちづくりの「復習」と、公共空間プロジェクトに対する世界的な潮流「Tactical Urbanism(戦術的都市づくり)」の紹介がありました。

 錦二丁目では、2011年にまちづくりマスタープランを策定し、それを機に公共空間に関するプロジェクトを本格的に進めてきました。特に2012年に制作・使用されたストリート・ウッド・デッキ(SWD)は、都市部において木材の利用を促進することを目的とした「都市の木質化」プロジェクトと協働して、路上の駐車マスに憩いの場を作ろうとしたものです。車道上の設置は難しく断念することになりましたが、このプロジェクト以来、錦二丁目では様々な公共空間のプロジェクトを、その都度、方法を見直しながら進めてきました。

  「Tactical Urbanism」とは、このようなアプローチ、まさに長期的な変化を期待しながら、短期的で省コスト、さらに発展的に介入を行っていくまちづくりのアプローチのこと。とにかくまずやって見せる、そして改善してまたやってみる、というトライ&エラーを反復しながら、同時に多くの人を少しずつ巻き込みながら継続していくことは、これからの公共空間を変える重要な考え方です。この地区も知らず知らずのうちに取り組んでいたんですね。

 

 

初代ストリート・ウッド・デッキ(SWD) Photo by あいざわ けいこ

※2012年冬。現在は二代目SWDが設置。

 

 

道路から公共空間 を再生する新しい取り組み:Parklet

 

 その事例の一つとして、昨年度まで豪・アデレードに留学していた渡邉真理さんから、留学中に見てきた取り組みを交えながら、海外の公共空間で現在広まりつつある取り組み「Parklet」の仕組みや様々な効果について、講演いただきました。

 Parkletはもともと、アメリカ・サンフランシスコで始まった取り組みで、路上パーキングの空間を歩行者のための空間や駐輪場、植樹帯などまちを豊かにする空間として再構成しようという動きです。公共空間を使った様々なアクションを起こそうという市民運動「PARK(ING) DAY」が発展した取り組みであり、市と沿道事業者が連携して展開しているプロジェクトです。道路空間が中心部の面積の25%を占めるサンフランシスコにとって、非常に有用な取り組みだと評価されています。

 では現在の錦二丁目における道路空間の比率はどのくらいでしょう?なんと40%が道路で占められているとのこと。サンフランシスコよりも更に見直す余地が多そうです。

 

アデレード市内にあるパークレットの一例 Photo by Mari Watanabe

 

 

 プログラムを実現するにあたっては、様々な課題が待ち受けています。たとえば、安全性は守られるか?一部の人のための空間になっていないか?維持管理をどうするか?このような問題をクリアするため、すでにプログラムを展開している都市では、各都市の実情に応じて、行政が主導してルール作りや申請プロセスを整備しています。

 たとえばサンフランシスコでは、詳細な技術基準を設けることで、それをクリアすることで自由なデザインができるような仕組みとしている一方、ロサンゼルスではモデルタイプを設けることで、申請者がより簡易に設置できるような仕組みとしています。

 いずれの都市でも、Parkletは多くの歩行者に利用されており、利用している人の90%が近くのお店でお金を使っている(San Francisco)など具体的な調査結果も出始めてきました。講演後の質疑では、日本ではどのように展開するのか?市民の理解が得られるのか?といった、今後の国内での適応を見すえた質問が多く出され、Parkletに対する理解が深まりました。

 

サンフランシスコにおけるParklet設置手続きの流れ

※Parklet Manual by Pavement to Parksに講演者追記

 

 

 休憩をはさんだパネルディスカッションでは、村山先生の司会のもと、これまでの錦二丁目における公共空間での取り組み事例について3名(藤森幹人さん、河崎泰了さん、鍋田拓哉さん)の方が紹介を行った後、渡邉さんを交えて、これからの公共空間のあり方やその戦略に関する議論が行われました。 

 

※左上より時計回りで渡邉真理さん、村山顕人先生、藤森幹人さん、河崎泰了さん、鍋田拓哉さん

 

自分たちで道路空間を管理するー長者町ウッドテラスの挑戦

 

 まず(株)対話計画の藤森幹人さんからは、2014年から2015年にかけて実施された歩道拡幅社会実験「長者町ウッドテラス」について話題提供、特に安全性や利便性の観点から関係機関との調整や沿道との交渉プロセスを紹介いただきました。

 この取り組みの特長は、SWDに続き、歩道空間にも木材を利用したこと。これを実現するため、自分たちで滑り試験を行い材の仕上げを決定したり、耐荷試験を行ったり。また、道路管理者である名古屋市と協定を結び、施工から維持管理、撤去までを地域(錦二丁目まちづくり協議会、錦二丁目内町内会連合、名古屋長者町共同組合)で行っています。全面的に自分たちで道路管理を行った結果、道路管理として考えなければいけない安全性や責任を地域として考え直す機会になったといいます。

 公共空間を自分たちの手で取り戻すには、単に楽しく活用する自由だけではなく、実施する側の主体、地域住民それぞれ責任と覚悟が必要、というメッセージは、実際に取り組みを進めてきた責任者ならではの重い言葉でした。

 

長者町ウッド・テラスの施工風景(2014年9月)

施工は承認工事手続きにより、施工会社と地域関係者とが協働し実施

 

 

 

都市と森林をともに再生する-「都市の木質化」プロジェクトの2つの価値

 

 続く愛知県農林水産部の鍋田拓哉さんからは、錦二丁目で良く耳にするプロジェクト「都市の木質化」について、森林再生の観点から話題提供を頂きました。

 愛知県の人工林は全国でもトップクラスの割合を占めています。これは、それだけ林業をやって行こうという人が多かったという証しでもあります。しかし一方で、森林の高齢化が進み、建材に使用するにはちょうどいい時期を過ぎた木が増えている一方で若い木があまり多くないそうです。都市部で沢山の木材を利用することは、それだけ木材の需要促進につながり、それが新しい木を植える余地をもたらし、木材の循環を健康的に促進することにつながります。公共空間で木材を積極的に使用していくことは、単に都市の再生を進めているだけでなく、遠くに感じる森林と都市をつなぎ、森林の再生にも貢献することが出来るんですね。

 

愛知県における人工林の林齢別面積割合

建築用材として最適な材が高齢化する一方、若い木が少ない

 

 

 

地域が継続的・反復的に公共空間にかかわっていくこと-木質化ベンチからはじめよう

 

  最後に(株)竹中工務店の河崎泰了さんは、現在、錦二丁目で設置されている公共空間での木質化ベンチの利活用と維持管理について紹介しました。この夏、あいちトリエンナーレ2016連携事業の一環として設置された木質化ベンチは、地区の数少ない休憩空間でありながら、まだまだ利用が多くはありません。また、ベンチを実際に置いてみると、放置自転車や植栽、ゴミなどが目に付きます。そこで現在は、地域でのおもてなし清掃や使いこなしのためのプログラムなど様々な取り組みを試みています。公共空間を変えていくには、単発的な実験や整備だけではなく、繰り返し継続的に地域が関わることで、少しずつ馴染ませていくことが重要です。

 

 

おもてなし清掃活動の様子(2016年8月)

地域の事業者や住民が100名以上参加し、ゴミ拾いを実施。より多くの人が公共空間を見つめるきっかけに。

 

 

 

これからの公共空間づくりにむけて

 

 後半の議論では、冒頭、村山先生が公共空間での取り組みの4つの類型(民間敷地活用、歩道利活用、歩道拡幅、車道利用)と様々な取組に共通して合意形成と許認可が大きな課題になっていることを提示しました。議論では、実際に公共空間を変えてみることでたくさんの反応が得られること、そこから議論が進むこと(藤森さん)、「都市の木質化」が公共空間づくりに参加を促せること(鍋田さん)、単に公共空間を変えるだけでなくその「使い方」を仕掛けていくことが重要になること(河崎さん)など、これからの公共空間づくりに重要なポイントが提起されました。

 

 

本日のまとめ

 

 最後はおなじみ、延藤安弘先生(特定非営利活動法人まちの縁側育くみ隊代表理事・錦二丁目まちづくり協議会世話役)のまとめです。本日の議論を下記のとおり、7つのキーワードでまとめて頂きました。そこから浮かび上がってきたのは…「ちがいをいかす、長者町」公共空間40%という特殊性を活かし、合意形成の戦略と段階的な実践を大事にしようというメッセージで、最後を締めくくりました。

 

講座①のまとめ(by Yasuhiro Endoh) 

 

 

 

 勉強会後の翌日である9/29に、神戸市が日本初となるParkletの社会実験を行うことを発表しました。道路の公共空間としての可能性は高まってます!これから更に安全ですごしやすい空間の創出が期待できますね。

 

 

開催概要

 

錦二丁目環境アカデミー 低炭素まちづくりの知識創造スパイラルアップ講座2

講座1 公共空間がもたらすまちの価値向上

    オーガナイザー 村山顕人 東京大学大学院工学系研究科准教授/錦二丁目低炭素地区会議議長

日 時:2016年9月28日(水) 18:30~20:30

場 所:名古屋センタービル9階(名古屋市中区錦二丁目2-13)

参加費:500円

 

プログラム:

 講演◆道路空間の活用がもたらすまちの価値─Parkletの事例から

    渡邉真理(名古屋大学大学院環境学研究科 博士前期課程

 パネルディスカッション◆これからの公共空間

    藤森幹人(株式会社対話計画)

    鍋田拓哉(愛知県農林水産部農林基盤局林務課)

    河崎泰了(株式会社竹中工務店)