錦二丁目環境アカデミー2 講座④「多様な暮らしが実現できる豊かな低炭素まちづくりへ」開催報告

 

 2月8日に、2016年錦二丁目環境アカデミー第4回を開催しました。

 第4回目のテーマは「低炭素まちづくりとエリアマネジメント」。錦二丁目まちづくり協議会会長の堀田勝彦さんから、錦二丁目のこれまでのまちづくりの経緯とこれからの展望を思う存分、語って頂きました。

 

 

ゑびすビルとあいちトリエンナーレ―よそものを寄せ付けなかったまちが開き始めた

 

 あらためていう事でもないですが、錦二丁目は戦後の焼け野原から繊維問屋街として再形成された16個の正方形で形成されたまちです。高度経済成長期には日本3大繊維問屋街の1つとして活気がありましたが、その後産業構造の変化などから停滞の時期が始まり、空きビルや駐車場が増加し、まちの賑わいが急速に失われ始めました。このようなまちの状況の転機となったのが、長者町50年祭、現在のゑびす祭りのもととなる都市型のお祭りでした。これまでは繊維業以外の業種が立地することが難しいほど閉鎖的であった地区のコミュニティが、コミュニティ内の結びつきを見つめ直し、少しずつ外に開きはじめます。

 

 その最初の動きが、堀田さんが中心となって手がけた「ゑびすビル」です。今ではあまり珍しくありませんが、この当時、古い空きビルをリノベーションして別の用途に活用する事業はあまり例のないこと。エレベーターがない、階段が奥にある、などテナントビルとしては不利な問屋ビル特有の構造を強みに変え、家具や小売業など、様々な業種をまちに呼び込みました。続いて実施した「伏見・長者町地区ベンチャータウン構想」では、同じ考え方で小規模オフィス用のリノベーションを手掛けたもので、これらの考え方を活かしたリノベーションビルは地区に10棟以上存在しています。これらの活動は、単に空きビルを活用しただけでなく、建築家やアーティストなど、様々な専門家がまちに居つき、交流が生まれたことも大きな効果でした。

 

 2010年に愛知県が立ち上げた「あいちトリエンナーレ」もまた、新しい空き不動産の活用方法が生まれるきっかけとなりました。まちなか会場の1つとなった長者町では、取り壊し前やテナントの入れ替えなど、長期には貸し出しにくい空間をアートの展示空間として一時的に貸し出していきます。長者町は2013年、2016年もトリエンナーレのまちなか会場となり、アーティストとの交流を通じて更にまちを様々な人にオープンにしています。

 

 ビル再生を通じて、コミュニティを開き、まちに多様性を生む、これが錦二丁目のまちづくりの第一期でした。

 

 

ゑびすビルとI.D. Lab

ゑびすビルPart.2(左)とNagoya I.D Lab.2(右上)とLab.3(右下)

当初は「(有)長者町まちづくりカンパニー」を立ち上げ、オーナーとテナントの間をつないでいたが、現在はオーナー自らが管理する仕組みに移行し、会社は役目を終えて昨年解散した。※講演者資料より

 

 

マスタープランと低炭素まちづくり―まちの羅針盤をつくる

 

 2009年~2011年にかけては、これまで地区で行ってきた活動や2005年から「まちの縁側育くみ隊」の延藤先生が中心となって進めてきた「まちのデザイン塾」の活動を集約し、まちの関係者と専門家とが一体となって、まちとして将来の方向性を生み出すマスタープランの策定を行いました。

 

 完成したマスタープランは50ページ以上!「安心居住」「元気経済」「共生文化」の3つの基本方針のもとに、地区のゾーニングや道路の使い方、不動産の活用など様々な事業を埋め込んだ集大成です。これが、地区のまちづくりを、ごく限られた人が進める事業ではなく、まちの関係者みんなが方向性を共有しながら進めていくものへと変えていく契機となります。

 

 また、2014年にはマスタープランにより動き始めた様々な活動を「低炭素まちづくり」により捉えなおす動きが始まりました。「名古屋市低炭素モデル地区事業」への認定とともに、住民自らが施工し維持管理する歩道拡幅社会実験や、木質化ベンチの設置など、活動がどんどんまちの中に展開されはじめています。

 

 策定から6年が経とうとしている現在、振り返ってみると、マスタープラン策定時には実現性が見えなかった事業が少しずつ進み始めています。(誰もちゃんと内容を覚えていなくても笑)自然と一つの方向性に向かっていることが、マスタープランの何よりの役割だと実感しているそうです。

 

 

錦二丁目まちづくり構想(マスタープラン)と会所・路地構想

マスタープランの表紙(左)と開発の考え方(右上)、会所・路地構想(右下)。

会所・路地構想は再開発事業で第一弾が実現できそうな見込み。

 ※講演者資料より

 

そしてエリアマネジメントへ

 

 様々な方向性にプロジェクトが伸びていく一方、活動の資金繰りや人材不足は大きな課題です。エネルギーの共同利用や道路の利活用など、構想するプロジェクトの課題を解決し、持続的にまちづくりを展開していくためには、よりまちづくりを経営的に捉えていく「エリアマネジメント」の発想が必要です。

 

 現在、錦二丁目には再開発事業が動いています。実のところ法定再開発の誘導というのもマスタープランに位置付けられています。その中でマスタープランで描いた会所と路地(地区に古くから残っている、街区内部に公共空間を設け歩行者空間でつないでいく街区構造)が計画されるとともに、地域貢献事業の1つとして「エリアマネジメント」が掲げられています。まだまだ課題も多い状況ですが、これを機にしっかりとした基盤を整え、持続的にまちづくりを進める体制の構築を議論しているところだそうです。

 

 特に来年は様々な動きがみられるそうで、これからも目が離せない状況になりそうです。

 

 

自立・創造・持続的なまちづくりの仕組み(by Yasuhiro Endoh)

※講演者資料より

 

 

 

これからの取り組みアイデアを生むグループディスカッション

 

 堀田さんの講演の後は、「都市の木質化」「建物の利活用」「低炭素まちづくり」「公共空間」「自然エネルギー活用」の5つのグループに分かれ、これからの展開に向けたアイデアを出すグループディスカッションを行いました。

 ディスカッションの発表では、次年度以降の取り組みにつながる様々な意見が出されました。「都市の木質化」では再開発事業の木質化や、木質化拠点の設置、「建物の利活用」では、ゑびすビルやI.D. Labに続く次なる「低炭素型」モデルビルの改修、「低炭素まちづくり」では、防災も合わせたまちづくりや街を様々な技術やシステムの実験の場に!という意見も。「公共空間」では、アカデミー講座1で話題になったパークレットの実現に意欲が高まりました。最後の「自然エネルギー利用」では、CSRやブランディングとの連携が提案されました。

 

グループディスカッションのまとめ(by Akito Murayama)

 

 

本日のまとめ

 

 最後のまとめは村山顕人先生(東京大学大学院工学系研究科准教授/錦二丁目低炭素地区会議議長)から。

 堀田さんの講演を受けて、錦二丁目では6年ごとに大きな転機があるのでは?とご指摘いただいたのち、グループディスカッションの結果を踏まえつつ、2014年から始まった低炭素まちづくりにおいて、当面進めるべきことを2つご提案いただきました。

 1つ目は「まちに少しずつ手を入れていくこと」。

 マスタープランと低炭素まちづくりロードマップという大きな羅針盤がある中、より多様な人々を巻き込み、実「戦」的にまちを変えていくためには、計画や議論を超えて、積極的にまちに介入し、まちの建物や公共空間、ライフスタイル/ワークスタイルを変えていくことが大事です。まちを(エコ)実験の場として捉え、出来るところからまちに手を入れていく、様々なことを試していくことが重要だとお話しいただきました。

 2つ目は「目的に応じて組織や体制を整えていくこと」。

 取り組みが多様に、そして、大きくなっていく中、それを支える体制をつくっていくことが重要だとお話しいただきました。再開発事業が動き出し、エリアマネジメントなど新しい枠組みが動き始める中で、これまで以上に企業や行政との連携、地域の巻き込みを進めていくことをご提案いただきました。

 

 

 

 講座4は2016年の最後です。

 1年間のアカデミーを振り返りながら、次年度もまた、様々なプロジェクトに積極的に取り組んでいきます。

 環境アカデミーは次年度も実施する予定です。具体的な企画はまだこれから。。。ですが、より魅力的な内容を企画する予定ですので、皆さまぜひお越しください!

 

 

 

 

開催概要

 

 

錦二丁目環境アカデミー 低炭素まちづくりの知識創造スパイラルアップ講座2

講座4 多様な暮らしが実現できる豊かな低炭素まちづくりへ

 

日 時:2017年2月8日(水) 18:30~20:30

場 所:名古屋センタービル9階(名古屋市中区錦二丁目2-13)

参加費:500円

 

プログラム:

  講演者◆堀田勝彦(錦二丁目まちづくり協議会 会長)

  グループディスカッション