10月26日に、2016年の錦二丁目環境アカデミーの(第2回)を開催しました。
第2回目のテーマは「環境不動産」。環境・社会への配慮がなされた不動産を支援するために、平成23年4月に日本政策投資銀行(以下、DBJ)が創設した不動産認証制度である「グリーンビルディング認証」の勉強を通じて、これからの新しい不動産経営の考え方と、その実践方法について考えました。
まず最初に、DBJの小松崎遥平さんから「環境・社会に配慮した不動産経営に関する経済性」と題してご講演頂きました。
環境不動産とは?
「環境不動産」とは、環境や社会に配慮した不動産のこと。先進国が軒並み人口減少・経済成熟の社会を迎え、地球全体の資源制約が高まる中で、短期的に収益を上げるだけでなく、次世代に富をつなげるために不動産の長期利用を推進するための考え方で、国際的に気運が高まっています。
そもそも、不動産の価値とはどのように決まるのでしょうか?単純化してしまうと、その不動産からみこめる毎年の「期待収益」を、「期待利回り」で割ったもの。期待収益は不動産の貸し借りをする人の間で決ますが、期待利回りはその不動産を「持ちたい」と思う人の間で、目の前の状況だけではなく将来に向けた発展性や安定性を含めて総合的に判断されます。不動産経営において環境や社会に配慮した取り組みを行うことは、まさに長期的な安定性やエリアとしての魅力アップを通じて不動産の価値向上に貢献できる可能性があります。
不動産価値の決定要因
※講演者資料に講演内容追記
最近の調査では、環境認証を受けた物件は非認証物件より高い賃料で事業が成立していること、特に築年数が20年以上または中規模のビルでその傾向が顕著であることがわかってきました。また、不動産を売買する投資家に対するアンケートでも、10年後には環境に配慮した不動産の価値が高くなると回答する声が多いこと、特に長期の運用を行う国際的な年金基金等で環境配慮型の事業や不動産を積極的に選ぶ投資が増加しつつあるようです。
DBJ Green Building認証とは?
日本政策投資銀行が開発した「グリーンビルディング認証」は、上記のような環境不動産をはじめとして、環境・社会に配慮した長期的に利用できる不動産を認証する制度です。長期で多額の資金を要する不動産事業においては事業に関わる主体が多く、そうした多様な関係者の理解が得られなければ、環境・社会へ配慮した不動産運営が行いにくいと考えられます。認証制度を用いることで、環境・社会への配慮に関する取り組みを正当に評価し、多様な関係者を巻き込みやすくすることを目指すものです。
また、単にビルの環境性能のみを取り上げるのではなく、利用者の快適性や、防災などのリスクマネジメントのほか、地域コミュニティへの配慮、オーナー・テナント・管理会社などのパートナーシップなどソフトな面も含めた5つの視点から総合的に評価を行う仕組みです。高い評価を得られた不動産には、5段階で認証が与えられます。
「DBJ Green Building認証」の評価の視点と認証の仕組み
※講演者資料に講演内容追記
これまでの認証実績は?
これまでの「グリーンビルディング認証」の認証実績では、築年数6~15年の物件も多く存在します。また、認証段階別に築年数をみると、5つ星物件を除けば、認証ランクと築年数にはあまり関係がないというデータも出ています。
名古屋市内の代表的な認証例として、ミッドランドスクエア(5つ星)、Mozoワンダーシティ(5つ星)、名古屋インターシティ(4つ星)、イオンモールナゴヤドーム前(3つ星)が紹介されました。5つ星で認証されたミッドランドスクエアは、一般利用が可能な多目的ホールや耐震性の高いコージェネレーションなど、利用者の快適性や防災面に配慮が評価されています。また、周辺企業と連携した清掃活動など、周辺環境への配慮も評価ポイントになっています。ショッピングセンターであるMozoワンダーシティでは、生活サービステナント誘致や、公共交通利用者にポイントを付与するなどの制度運用が評価のポイントです。築年数が古く中小規模でも認証されている物件が数多くあり、そのような建物ほど、コミュニティへの貢献や運用上の取り組みが高く評価される傾向にあります。大規模なビルが少ないこの地区でも、まちづくりとの連携によって大きなチャンスがありそうです。
錦二丁目地区周辺の認証物件の例(事務局作成)
名古屋インターシティ
延床面積:36,613.82m2/竣工時期:2008年9月
地域の防災拠点としての機能やステークホルダーとの省エネ意識の共有への取り組みが高く評価
※概要はプレスリリースより
※Photo by Morita Hiroyoshi
丸善名古屋本店ビル
延床面積:4,901.90m2/竣工時期:2015年3月
中部地区の認証事例のうち延床面積が最も小さい事例。
省エネ設備の積極的導入が評価。また、来訪者向け駐輪場の確保や公開空地と路地の接続などの工夫も見られる。
※概要はプレスリリースより
※Photo by Morita Hiroyoshi
KDX桜通ビル
延床面積:19,680.16m2/竣工時期:1992年8月
中部地区の認証事例のうち竣工時期が最も古い事例。
LED照明や節水型トイレの積極的導入や、管理会社と連携した省エネ目標の設定・実績検証など運用面での環境配慮の取り組みを実施。
※概要はプレスリリースより
※Photo by Morita Hiroyoshi
錦二丁目での環境不動産の展開戦略
休憩をはさんだ後半は、錦二丁目におけるこれからの新しい不動産経営の考え方と、その実践方法を探るべく、パネルディスカッションが行われました。
パネルディスカッションでは、ご講演頂いた小松崎様に加え、DBJの飯塚様、錦二丁目から錦二丁目まちづくり協議会会長の堀田さん、錦二丁目まちづくり協議会副会長の河崎さん、東京大学大学院准教授で錦二丁目まちづくり協議会の低炭素地区会議で議長を務める村山先生がパネリストとなり、会場を含めて意見交換が行われました。
パネル・ディスカッションの様子
※写真右から、飯塚洋史さん、小松崎遥平さん、堀田勝彦さん、村山顕人先生、河崎泰了さん
議論のはじめには、錦二丁目で課題となりつつある耐震改修と認証制度との関係、まちづくりへの貢献による評価への反映が質問されました。古いビルの認証事例では、既存施設や設備の大規模改修を伴わない取り組みを評価する事例が多いといいます。例えば、環境マネジメントの取組みや、災害時を見据えた備蓄による地域貢献などの実績があり、今できる取り組みを積み重ねることが重要です。
不動産とまちづくりの関係に関する議論もありました。一般的な傾向として、ある地区に価値の高い物件があると、周囲の物件も引きずられて価値が高まる傾向にあること、また地区として価値が上がると、より価値の高い不動産が集まる傾向にあるそうです。まちと不動産は別々にあるのではなく、相互に価値を高めていくこと、まさに地域とそれぞれの不動産がともに「スパイラルアップ」する関係が重要ということですね。
また、国際的な年金基金など長期的な視野で投資を行う市場が大きくなってきたことを背景に、これまで不動産単体を視野に運用を行ってきた投資家であっても、これからはエリアとしての価値や長期的な安定性に視野を向けた運用が広がる可能性も指摘されました。
フロアからは認証の客観性についての質問が出ました。GB認証は、決められた様式を基にした定量的な評価を踏まえ、最終的には審査会での判断を行う仕組みをとっているとのこと。まだまだ、発展段階の取り組みであるため、毎年少しずつ評価方法を改善しながら、新しい取組や知見を積極的に取り込み、成長しているそうです。
最後に飯塚さんからは、まちづくりでの活用に向けたアドバイスとして、不動産の特長を適切に評価できる認証制度を選択・利用して関係者間のコミュニケーションのきっかけとすることが重要、とご提言いただきました。
本日のまとめ
最後はおなじみ、延藤安弘先生(特定非営利活動法人まちの縁側育くみ隊代表理事・錦二丁目まちづくり協議会世話役)のまとめです。本日の議論を5つのキーワードでまとめて頂きました。そこから浮き上がってきたのは…「経験価値」。まちに生きる人の経験価値を高めるグリーンビルディングの考え方を大事に実践していこうというメッセージで、最後を締めくくりました。
講座②のまとめ(by Yasuhiro Endoh)
参考:錦二丁目地区周辺のグリーンビルディング認証物件(事務局作成)
開催概要
錦二丁目環境アカデミー 低炭素まちづくりの知識創造スパイラルアップ講座2
講座2 企業のエネルギー配慮と不動産経営の効率化
日 時:2016年10月26日(水) 18:30~20:30
場 所:名古屋センタービル9階(名古屋市中区錦二丁目2-13)
参加費:500円
プログラム:
講演◆環境不動産・投資による持続可能な経営展開~グリーンビルディング認証の活用
小松崎遥平(株式会社日本政策投資銀行 アセットファイナンス部)
ディスカッション◆環境不動産を活用したまちづくり
小松崎遥平(株式会社 日本政策投資銀行 アセットファイナンス部)
飯塚洋史 (株式会社 日本政策投資銀行 アセットファイナンス部)
堀田勝彦 (錦二丁目まちづくり協議会 会長)
河崎泰了 (錦二丁目まちづくり協議会 副会長/株式会社 竹中工務店)
村山顕人 (錦二丁目低炭素地区会議 議長/東京大学大学院工学系研究科 准教授)