錦二丁目環境アカデミー2 講座③「既存空間の活用による次世代の経営展開」開催報告

 

 12月7日に、2016年錦二丁目環境アカデミーの第3回を開催しました。

 第3回目のテーマは「リノベーションと起業」。古いビルの活用による新しいビジネス展開と、それによる生活空間の充実について話し合います。錦二丁目地区内でも活躍している4名の経営者の方から、既存空間活用のノウハウとこれからの展望を話していただきました。

 

 

 

シェアハウスから暮らしの充実を―シェア180

 

 はじめに、愛知県内で多くのシェアハウス運営を手がけるシェア180代表取締役の伊藤正樹さんに話題提供をいただきました。愛知でも現在、シェアハウスは増加しており、5年前には5棟であったのが、2016年の現在は10倍以上の60棟を超えているそう。エリアとしては、一戸建ての中古住宅がある程度存在する、名古屋近郊での数が増えているようです。

 シェア180では、これまでも、単に共同生活をするだけではなく、ハウス内のコミュニティを気づきやすく交流が生まれる仕掛けとして、外国人と英語が学べるシェアハウス、起業家が集まるシェアハウスなど、通常のシェアハウスだけではなく、物件ごとに様々なコンセプトをつけ、共通の興味や目的意識のある居住者をマッチングできるような運営をしています。今回、詳細にご紹介いただいたのは、最近オープンしたDIY型シェアハウス。DIY好きのオーナーさんと知り合ったのがきっかけで、施工費のダウン、愛着の向上による入居期間の長期化の可能性、コミュニティの醸成などを期待してスタートしたプロジェクトです。自営業としての創作活動を行うための法人登記、ワークショップの主催許可、工作機・工作類の完備など、ものづくりをはじめとして新しく起業する方にも対応しているほか、オープニングの際には見学者にDIYを経験していただくなど、様々なプログラムも盛り込んでいます。

 中古住宅を利用した際のシェアハウスの活用は、オーナーにとってもメリットがあります。一戸建てを活用することで、シェアハウス一戸あたりの賃料は非常に安く借りられるのに対し、建物全体では一戸建て全体で貸す場合の賃料を大きく上回っています。最近では民泊にも注目が集まっており、空き家を利用した新たな住まい方の展開は今後もさらに広がっていくようです。 

 

DIY型シェアハウス

防水や水回りなどはプロに任せながら、共用部(左)の内装仕上げは80%、個室(右)内装仕上げは50%程度とし、居住者がDIYによりカスタマイズできる余地を残しておく

※写真はシェア180ホームページより

 

 

まちをつなげるコーヒースタンドの役割―MITTS COFFEE STAND

 

 つぎにお話しいただいたのは、錦二丁目でコーヒースタンドを営むMITTS COFFEE STANDの阿部充朗さん。なぜ錦二丁目で喫茶店をオープンしたのか、ワークスタイル・ライフスタイルへの影響、古い建物の活用についてお話しいただきました。

錦二丁目でのオープンは特に理由はないとのこと(笑)。喫茶店の中でも、郊外は土日、特にモーニングの集客が多いのに対し、都心は平日の朝が混んでいるそう。朝一番にコーヒーを飲んで、元気を出してもらう、というところが気に入ってまちなかで物件を探し、現在の物件に巡り合ったそうです。

現在、MITTS COFFEE STANDは、錦二丁目で展開している都市養蜂のプロジェクト「ハニカムプロジェクト」と連携し「長者町はちみつ」を使用したお菓子を販売したり、ゑびす祭りに積極的に協力したり、ライブやアートの展示を通じて様々な人が交流したり、地域にとって欠かせない場になりつつあります。阿部さん自身は来るもの拒まずのスタンスでやっているとのことでしたが、それが結果としてコミュニティとのかかわりを深め、様々な人が集まる場になっています。好きなことをしている人を応援したいという気持ちが以前より強くなった、という言葉が印象的でした。

 

アート展示時の店内の様子

 ※講演者資料より

 

 

まちへと開くアーティスト活動拠点―Transit Building

 

 3人目の登壇者は錦二丁目内で1棟全体をクリエイター用のビルとして運営する武藤勇さんです。

 名古屋は一見、芸大や美術館、ギャラリーが多いですが、ほかの地方でのアート活動を経て名古屋に戻ってきたときに「若い人が活躍する場所がない」と感じ、アーティストの集まる場づくりを始めたそうです。はじめは郊外を中心としてアートギャラリーやフリースペース、それらをつなげるイベントの展開を行っていたそうですが、あいちトリエンナーレにおける、サポーターのためのカフェ運営のコーディネートを契機に、錦二丁目に関わることになりました。

現在のトランジットビルは、もともと和装小物屋が営まれていたビルで、その構造をなるべく活かし、クリエイティブ活動を中心とした人たちが活動できる拠点となっています。現在入居しているのは、コワーキングスペース、建築事務所、ギャラリー、アトリエなど16組、40名ほど。入居にあたってはビルの周年イベントや、長者町内の各種イベントへの積極的な参加をお願いし、ビル内の活動がまちに広がるような仕組みづくりを行っています。実際、錦二丁目のまちづくりにとっても、トランジットビルを拠点としたアーティストはもはや欠かせない存在になりつつあります。

 

 

Transit Building内部の様子(アトリエ)

 ※講演者資料より

 

 

古いビルは地域のポテンシャル―八木兵殖産株式会社

 

 最後の登壇者は八木兵殖産株式会社の山口剛史さん。八木兵殖産株式会社は、もともとは繊維卸業、メリヤス問屋から始まった、錦二丁目地区に古くからゆかりのある会社です。

現在、八木兵殖産では、まだまだ元気な方が多いシニア世代を積極的に雇用し、草刈り、トイレの清掃、ビル近くの不法投棄された廃棄物の処分など所有する物件の維持管理を外部の会社ではなく自社で総合的に行っています。古いビルを大切かつ快適に使うためには、トイレの清掃も大事なことです。トイレをきれいに保つことは、落ち着いた職場環境を確保することであり、企業経営にとっても非常に重要なことだとお話しいただきました。

 テナントとのマッチングについても新しい試みを進めています。今年から、1フロアを数席ごとの事務所に分割するレンタルオフィスを展開しています。実際の運営で気づいたことは、錦二丁目では士業の方が多いこと。役場から近いことが人気につながっています。今後は、さらにまちの機能や居住者への多様性を持たせるため、幅広いターゲットに合わせた展開を進めていくそうです。

 

 現在、繊維問屋街はどの地域も厳しく、とりわけ名古屋の繊維卸売業は厳しい状況が続いています。しかし、飲食や住居が一気に立地してしまった東京や大阪と比べ、まだまだ地域の結びつきは強く、顔が見える関係が強いと感じるそう。コミュニティの力を活かし、まちの意思を持った発展や取り組みの展開、まちづくりができれば、と最後に力強いメッセージをいただきました。

 

太陽光パネルを設置したビル屋上の例

※講演者資料より

 

 

 休憩をはさんだ後のパネルディスカッションでは、名畑さん(NPO法人まちの縁側育くみ隊・理事)をコーディネーターとして、登壇者の皆さんを含め、古いビル活用による場づくりの価値について、ディスカッションを行いました。

 

※左上より時計回りで名畑恵さん、阿部充朗さん、山口剛史さん、武藤勇さん、伊藤正樹さん

 

 

古いビルの価値と課題とは?

 

 冒頭、名畑さんから改めて、古いビルを使うことの価値や大変さを問いかけます。

古いビルの価値については、やはり共通して上がった話題は経済性。新築と比べて安く借りられるということが、地域に新しい場を作ることに対して、大きなメリットにつながっています。それに加えて、複数の人が一緒に住むことで生まれる小さな文化の面白さ(伊東さん)古いビルを工夫して使うクリエイティブな点(武藤さん)などが挙げられ、阿部さんからは、「古いビルを借りるということは、その地域に古くからかかわっている大家さんと付き合うこと」。新しくお店を展開する人にとっては、建物選びが最初の地域の窓口になっているようです。

一方、不便さや大変さでは建て替えの不安、用途を変えるための手続き、修繕など物理的な耐久性や制度への対応面があげられました。特に山口さんからは、雨漏りの大変さをしみじみとお話しいただきました。

 

 

 

場づくりから人づくり、つながりづくりへ

 

 また、本日の話題提供いただいた事例すべてに共通して言えることは、古いビルでの経営を通じて、人と人が交流する場づくりを行っていること。トランジットビルの事例では、クリエイターを集める工夫として、年1回のオープンスタジオ、ゑびす祭りへの参画などのお願いをしているほか、ビル内で仕事が回るような仕組みを構築しています。一方、シェアハウスを運営する伊藤さんは、オープン初期の入居者間のコミュニティづくりを重視し、すべての物件でオープン時には伊藤さんも一緒にハウスに住み、入居者間のコミュニティづくりをしています。そのせいで年に何回も引っ越しをすることもあり、引っ越しの準備がかなり早くなったとのこと(笑)。阿部さんは、まちのおかげで商いができる、という意識のもと、コミュニティの営みに協力することは、その恩返しの1つ、とお話しいただきました。建物オーナーである山口さんからはビルと入居者のマッチングでの心がけとして、従来地域になかった業種や入居者を取り込むこと、多様性を確保すること、を意識している、とお話しいただきました。特に若い起業者は、まちの魅力を引き出してくれる存在であり、外から来た方と交流することが様々な変化をもたらすことを期待しています。

 

 フロアからも、様々な意見が出されました。錦二丁目でゑびすビルをはじめとした既存ビルの利活用を展開してきた堀田さんからは、「なかなか価値が付きにくい上層階で面白いことができないか」という提案。都市の木質化プロジェクトを中心的に進めてきた滝さんからは、人と人をつなぐ仕組みの大切さについてコメントを頂き、場づくりや仕事づくりと人づくりの関係性が共有されました。

 

 

本日のまとめ

 

 最後はおなじみ、延藤安弘先生(特定非営利活動法人まちの縁側育くみ隊代表理事・錦二丁目まちづくり協議会世話役)のまとめです。本日の議論を7つのキーワードでまとめて頂きました。そこから浮き上がってきたのは…「弱さは強さ」。若手経営者たちは、レジリエントなしなやかな弱さを味方にして創造するところが強み。長者町に閉じずに、名古屋都心の中間地点の伏見エリアのあるべき構想づくりに、こうした発想を生かしていこう!まち全体の意志をもって魅力あるまちづくりに赴こう!という機運が育まれました。

 

 

講座③のまとめ(by Yasuhiro Endoh) 

 

 

 

 

 今年、生誕100周年を迎えるジャーナリストであり、運動家であるジェーン・ジェイコブスは、今から50年以上も前に、何の変哲もない古い建物こそが、チャレンジングで新しいアイデアをまちに呼び込む必要条件であることを強く訴えていました。(アメリカ大都市の死と生)。古い建物をどのようにビジネスとコミュニティにつなげていくのか、全国各地で空き地・空き家が広がる中で、様々なアイデアがまちにあふれるよう1つ1つ着実に取り組みを進めていきたいですね。

 

 次回の講座は、年をまたいで2017年の2月8日に開催されます。公共空間、環境不動産、リノベーションと起業を経て、エリアマネジメントへ。これからの地区まちづくりに向けて、様々な取組を持続的に展開できる仕組みづくりと、様々な人が環境に優しく充実した暮らしを実現できる低炭素まちづくりの展望について語り合います。

 

 

 

 

開催概要

 

錦二丁目環境アカデミー 低炭素まちづくりの知識創造スパイラルアップ講座2

講座3 既存空間の活用による次世代の経営展開

 

日 時:2016年12月7日(水) 18:30~20:30

場 所:名古屋センタービル9階(名古屋市中区錦二丁目2-13)

参加費:500円

 

プログラム:

 司会:名畑恵(特定非営利活動法人まちの縁側育くみ隊 事務局長)

 

 講演者◆伊藤正樹(株式会社シェア180)

     武藤勇(N-mark)

     阿部充朗(MITTS COFFEE STAND)

     山口剛史(八木兵殖産株式会社)

 

 ディスカッション

 司会:名畑恵(特定非営利活動法人まちの縁側育くみ隊 事務局長)